灰皿飛ばす演出家

私は、若い頃芝居をやっていました。(^^ゞ
地元のミュージカル公演に参加した時は、東京の有名劇団から演出家がやってきました。
その演出家は熱血タイプで、稽古中に灰皿が飛んでくるのはしょっちゅう。
お陰で別の意味での緊張感がいつもあったのです。
50人近くの出演者がいましたが、何故だか怒られる役者さんは決まっていました。
大勢の前で怒鳴られるのはもちろん、時には殴られたり酷い時には稽古の途中で演出家が帰る事もありました。
しかし、何人か居た怒られる役者さんは、飛び切り演技が下手とか態度が悪いと言う訳ではないのです。

これは特殊な環境の極端な例ですが、会社や部活などでも良くある光景かも知れません。
上司が部下に対して平等に叱るのではなく、誰か特定の「叱られ役」が存在すると言うものです。
叱られる方は、みんなの前で槍玉にあげられて悔しい思いをする事もあるでしょうし、なんで自分だけ?と思うでしょう。

「叱る」行為そのものはいじめや虐待でも罰でもありません。
通常ならば、叱る事で本人に気付かせたい、教育したい、矯正させたいと思う気持ちが込められています。
それだけ見込んでいると言う事です。
それだけでなく、全員に対して気付かせたい事を「叱られ役」を槍玉にあげて伝えている場合もあります。

叱っても反発したり、反応がなかったり、そこから逃げ出すような人ならば叱っても無意味です。
その事を解っている上司ならば、叱る人を見極めています。
川上哲治氏が監督当時の巨人軍で誰よりも一番叱られたのは、当時現役だったあの長嶋茂雄さんだったそうです。
また、長嶋さんは監督の叱りに対して不服や反抗心を持たず素直にアドバイスとして受け入れていたのだそうです。
チームの最主力である長嶋選手が叱られても、それを素直に受け入れるため、それを見ていた周りの選手が見習おうと襟を正していたのです。
川上監督は、長嶋さんを叱られ役に据える事で、選手全体の指導を行っていたのですね。

最近は、部下や後輩に対してこのような指導をするタイプの人は減っているかも知れません。
また、叱る意味を履き違えている上司や先輩がいる事も確かです。
しかし、もし自分の直属の上司や先輩、先生などがこう言うタイプの人だと解れば、叱られれば叱れる程あなたは見こまれています。必要とされています。
自分を成長させるための愛のムチだと思って甘んじて受け入れる事が出来れば、必ずや自分の身になる事でしょうね。
また、もし上の立場の方がこのコラムを読まれていたら、何を持って部下や後輩に対して叱っているのか、今一度考える機会を作ってみて下さいね。

先程の演出家は、飲み会や打ち上げになると自分のそばに叱られ役の役者を置き、とてもフレンドリーにお話をされていました。
後で聞いた話ですが、先の演出家が本当に叱りたかったのは別の役者だったそうです。
そして誰よりも可愛がっていたのは、その叱られ役の役者だった事も付け加えて置きます。
ちなみに、私は怒られもせず褒められもせず・・・でした。(^^ゞ
[1]週刊ココロコラム
[2]TOPに戻る