シンデレラストーリー・男性編

これも仕事をしていた頃の話です。
ほとんど女性の職場に若い男性が入社して来ました。
外見はイケメンには遥か遠く、着慣れないスーツはブカブカで、子供っぽい部分とジジ臭い部分両方を併せ持ったタイプの人でした。
誰から声をかけられても、「は、はい!」と慌てて席を立つ程、カチンコチンに緊張していました。
あまりの緊張にまともに喋れず、特に女性に対してはうつむくばかりで声をかける事すら出来ないようでした。
学生時代、クラスにひとり位いた「勉強も運動もダメなイジメられっこ」のような印象です。

案の定、研修で業務内容を学習した時、同期の人達が1度で理解出来ても彼はなかなか理解出来ません。
業務についた時も、他の人達より業務知識ははるかに劣っていました。
その上カチカチに緊張しているせいかトンチンカンな失敗も多く、上司も「使い物になるのか?」と気にしていました。
そんな彼をみた職場の人々の多くが、心の中で彼を馬鹿にしていました。もちろん私もその中のひとりでした。^_^;

彼は休憩時間になっても机から離れず、お昼休みも食事をするとすぐ席に戻っていました。
私は、女性が多いためその場に居辛いからだと思っていましたが、違っていました。
資料を拡げ、自分なりに詳しくノートを取っていたのです。
「ワ、ワタクシは、人より覚えが悪い、ので、何回も勉強しないと、覚えられない、のです。」
声をかけたら、真っ赤になりながら話してくれました。
彼の勤勉さは並外れていました。休憩時間以外にも資料を全て持ち帰り、毎日家で勉強していたそうです。
資料の持ち帰りは禁止と知ると、タイムカードを打った後毎日1〜2時間職場で勉強していました。
その努力が少しずつ身につき、彼は確実に業務内容を自分の物にしていきました。
数ヶ月経ったところで、誰にも負けない位業務スキルの高い人になっていました。

「ワタクシは、敬語が、話せません。ですから、会社にいる、時は敬語を、使って、ちゃんと業務の中で、敬語を使えるように、したいと、思っています。」
と、誰に対しても差別なく馬鹿丁寧な敬語で話をしていました。
彼の一途な真面目さと、強い向上心、手を抜く事を知らないひたむきな努力、そして純真さは自分にはないものでした。
最初は馬鹿にしていた人達も、そんな不器用な彼の無垢な部分に尊敬の念を感じたのかもしれません。
次第に周りの人々が彼を大切にするようになっていきました。

後になって解った事ですが、彼には目指しているものがありました。
そのためには上京して専門学校に行く必要があり、彼は学費を稼ぐためと社会勉強として仕事をしていたそうです。
1年程勤めた頃、専門学校の試験に合格し、退社して上京する事が決まりました。
彼の送別会は、普段飲み会に絶対来ないような人も含め同僚全員が出席しました。
これこそ彼の人徳です。人に驕る事も媚びる事もなく、不器用なほどまっすぐ前を向いている姿勢は、私だけでなく誰の心も打つでしょう。
私は、「全員」来た事に感動していました。

彼がいなくなって、同僚がこんな事を言いました。
「学校や新しい職場でイジメられてないかなぁ。みんな解ってくれるかなぁ、ってお母さんみたいに心配しちゃう。(笑)」
不器用でも、不恰好でも、前を向いて黙々と努力をする姿は必ず誰かの目にとまります。そして心を動かされるでしょう。
言い訳や愚痴や不平不満で理論武装して努力せずに美味しい所だけを持って行く人よりも、ずっと素敵ですね。
[1]週刊ココロコラム
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