二重拘束・その1

昔、竹中直人のギャグで「笑いながら怒る人」と言うネタがありました。
さすがに笑いながら「バカヤロー、ぶっとばすぞ」と怒る人はそうそういないと思います。(^_^;)
でも、腹が立っても感情を素直に出して怒る事が出来ない場面は案外多いですよね。
どんなに理不尽でも「部活で先輩に」「会社で上司に」「妻が亭主関白の夫に」「子供が親に」対して怒りをぶつけにくいものです。
こんな時は必死に自分の感情を抑えて怒っていない事を言葉で表したり態度で表現しようとします。
しかし、不自然に強い声、笑っていても目が笑っていない、どこかピクピク引きつってる(笑)、貧乏ゆすりしているなど、表情や態度などに心の動きがつい出てしまいます。
「いいですよ。全然怒ってませんから気にしないで下さい。」と言っている姿が穏やかでご機嫌な時と違った態度なら、その異質さは概ね相手に伝わります。

言葉と態度は通常同じ感情を表現しますが、先ほどのような場合、表(言葉)では「怒ってない」を伝えていても、裏(態度)は不愉快・不機嫌を伝えていますので、2つのメッセージは矛盾しています。
これはメッセージとメタメッセージの矛盾の「ダブルバインド(二重拘束論理)」と言います。
ダブルバインドとは、人類学・社会学・言語学などの研究者グレゴリー・ベイトソンが発表した理論で、統合失調症の発症要因として考えられた家族のコミュニケーション様式を概念化したものです。(現在では、統合失調症の発症要因説はあまり支持されていないそうです。)

元々の日本人は、相手に対する配慮や気遣いから感情をストレートに表す事を是としない風潮と、さりげない言葉の端々や態度で相手の気持ちを読み取る事をよしとする風潮がありました。
そのため、先ほどの怒りに限らず「言葉と態度が違う」場面は誰しも日常的に経験する普遍的なものです。
相手への心遣いならば良いのですが、近しい人がダブルバインドのパターンにはまっていると話は別です。

可愛くないのに「可愛いね」と言う、愛情を持てないのに「愛してる」と言う、逆に愛しているのに「嫌い」と言う。
これらは親から子供へのダブルバインドの一例です。
子供は親の態度と言葉の違いを敏感に察知します。
子供から青年になる過程の環境にダブルバインドがあると、どちらのメッセージが本当なのか、自分は親から愛されているのかいないのか、自分に存在価値があるのかないのか、解らなくなり混乱します。
そんな環境で成長すれば、親から愛されないと思って育ったため自己評価が極端に低い人や、相手や自分の心の動きが理解出来ない人にならないとも限りませんね。

ダブルバインドは、統合失調症を発症している人の家庭に良く見られる行動パターンを研究し導き出された概念です。
今回はメッセージとメタメッセージの矛盾をご紹介しましたが、もうひとつの解釈としてダブルメッセージのダブルバインドがあります。
それは次回にご紹介します。
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