もうひとりの自分

私は昔、地元の劇団で芝居をやっていました。 一生懸命稽古をしますが、「間」が悪くて他の役者さん達にいつも迷惑をかけていました。
どうすればもっと芝居が上手になるのかと諸先輩方に伺うと、決まって返ってくる言葉は「もうひとりの自分を客席に置いて芝居をしろ」でした。
これは、観客から自分がどう見えているかを常に意識しろと言う意味でした。

他人の芝居を見ていると、この部分は「間」が悪いなぁとか、あの立ち位置は良くないなぁ、はっきり言って下手クソだなぁ、なんて判りました。
しかし、自分の事となると全然判りません。
なにしろ、いつまで経っても芝居の最中は必死でいっぱいいっぱいの状態でしたから。(^_^;)
結局10年続けても、もうひとりの自分を客席に置く事は出来ず、自分には向いてないと気付き辞めました。

芝居を辞めた後、クレーム対応の仕事をしていた時期があります。
他人から文句や怒りの感情をぶつけられるのはまだ良い方で、酷い場合は脅迫や嫌がらせもありました。
私は何も悪い事していないのに、なんで他人にここまで言われなくてはいけないのかと悔し涙を流した事も数知れず、本当にストレスの溜まるお仕事でした。
1年位経ったある日、物凄い勢いで怒鳴られている最中に、突然、お客さんの感情を抑えようとひたすら謝り倒している自分と、怒りがおさまらないお客さんの双方の状態が「見えてきた」のです。
すると、なんで私が怒られなきゃいけないの!(怒)、と言う悔しい気持ちが潮が引くように冷めました。
同時に自分自身が怒られている訳ではない事や、相手は感情が高ぶって引っ込みがつかなくなっているのであろう事が判りました。
そして、これらを踏まえて今こんな言い方をするとこのお客さんには効くかも知れないと言うアイデアが浮かんで来ました。
私はこの時ようやく、もうひとりの自分を客席に置く事が出来たのでした。(^^)
それ以来どんな厳しいクレームでも、以前ほど辛いと思わなくなりストレスも溜まらなくなったのです。

もうひとりの自分が自分を見るとは、客観的に自分を見る(観察する)事です。
自分自身を客観的に見られれば、自分自身の「感情」や「心の動き」が今どのようになっているかが判るようになるでしょう。
そして、なんで今自分はイライラしているのか、なんであの人に対して嫌な感情を持っているのか、なんで今落ち込み気味なのか、などの原因を分析出来ます。
また、相手の立場や相手の感情なども「自分自身の感情に支配されずに」考える事が出来るようになるでしょう。

もうひとりの自分が自分を見る事で、これまでと違った見方が出来るようになります。
今まで、腹が立っていた相手が、凄く嫌だった物事が、我慢できないほど辛かった事柄が、実は案外大した事ではなかったと言う事も十分あり得ます。
さらに、それらの問題を解決するにはどうすれば良いかが新たに見えてくるかも知れません。

もうひとりの自分が自分を客観的に見るのはなかなか難しいです。
コツは「いっぱいいっぱいにならない」事と、普段から自分を観察する事、かも知れません。
そうは言っても、私自身もクレームの仕事の時だけは出来ましたが、実生活ではほとんど出来ませんので偉そうな事は言えませんが。(^_^;)
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