自分探し・その1

私は、いろいろな方の悩みを伺う機会が多いのですが、その中でも良くこういう言葉を耳にします。
「これからどう生きていけばいいのか解らない」「自分が何をしたいのか解らない」「今後自分はどんな方面に進めば良いのか」「私の生きている意味は何なのか」

進路やお仕事についての悩みを持つ方からは、こんな言葉を伺います。
「文系と理系、どちらを選べば良いか解らない」「大学は行くつもりだが行きたい学校がない」「大学に入ったけど自分と合わない」
「今の仕事は自分に合わない(向いていない)」「自分に一番合う仕事が解らない」「自分の能力をフルに生かせる仕事が何か解らない」「どんな仕事をしてもやりがいを感じない」

スピリチュアル志向の方からは、こんな言葉を伺います。
「私の今生での使命は何か」「自分に起きる事の意味や高次な意識からのメッセージを教えて欲しい」「魂レベルで自分に何が起きているのか知りたい」

これらの言葉を要約するならば、自分の「人生の指針や目標」や「自分自身」を見出せず、足踏みをしているような状態と言えるでしょう。
そこで、心理学の側面からこれらについて考察してみたいと思います。

人は生まれたばかりの時には「個(自分)」の感覚がほとんどなく、母親等の養育者との区別がない状態です。
成長するに従って、親のしつけや、保育園や幼稚園での他の子との交流の経験などから「自分」と「他人」との区別やその違いを認識していきます。
自己意識が明確になっていくと、自分の行動の結果や周囲の人からの評価を元に子供自身が自己の評価をし、自己概念を形成していきます。
中学〜高校生の頃になると、大人の体への急激な変化や性的な成長と共に、内面にも様々な変化が出てきます。
そして、心も大人としての自覚や責任を持つべく精神的な試行錯誤を繰り返した上で、社会性を備え社会に出て行きます。

精神分析学者のエリクソンが提唱した、人生を8つの段階に分け「ライフサイクル理論」には、それぞれの段階ごとに「課題」があります。
課題の中で、一番有名なのは「アイデンティティ」(ego-identity/自我同一性)の獲得です。
アイデンティティと言う言葉は誰しも耳にした事があると思いますが、簡単に言えば「自分が自分であると言う明確な答えを持っている」です。
その中には主観的な部分だけでなく、「社会での自分の立ち位置や社会的な役割などに対しても明確な答えを持っている」も含まれています。
アイデンティティの獲得とは、自分で「自分は(社会的に)何者であるか」について明確な答えを得る、と言う事です。

アイデンティティの獲得は、ライフサイクルの「青年期」の課題です。
青年期は主に体が大人に変化する頃〜社会に出て行く間、だいたい中学〜大学位の時期です。
先に述べた「精神的な試行錯誤を繰り返した上で、社会性を備え」がアイデンティティの獲得の過程を指します。
異性との仲、友達との仲、学校の中、サークルの中、家庭の中、いろんな場面で「○○としての自分」や、他者からみた「○○としての自分」がいくつも存在します。
例えば、「女性としての自分」と「(男性からみた)女性としての自分」、「(妹がいる)お兄ちゃんとしての自分」と「(妹からみた)お兄ちゃんとしての自分」と「(親からみた)お兄ちゃんとしての自分」、「(友達といる時の)友達としての自分」と「(友達からみた)友達としての自分」などです。
様々な体験や他人や集団の中での社会的役割を通して得た、複数の「○○としての自分」の中で、自分の中で同一性のあるものを選んで統合していきます。
つまり、いろんな経験を通して自分らしさを少しずつ集め「確かな自分」を作り上げた状態がアイデンティティの獲得と言えるでしょう。

次回に続きます。
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