自分探し・その2

前回ご紹介したように、アイデンティティの獲得はライフサイクルの「青年期」の課題です。
青年期は、体は急激に大人になっていきますが、心理面では社会人として社会生活を営むまで発達しておらず、学生である、或いは親の庇護があると言った形で、社会的な責任や義務がまだ猶予されています。
この時期は「モラトリアム」(猶予期間の意味)と呼ばれています。
この期間に様々な経験や精神的な試行錯誤を繰り返し、アイデンティティの獲得の課題に取り組み、社会性を身につける事で、モラトリアムから次の段階へと進みます。

モラトリアムの間に様々な経験や精神的な試行錯誤が上手く出来ず、アイデンティティの獲得が出来なかった場合、「アイデンティティ拡散(自我同一拡散)」と呼ばれる状態に陥ります。
アイデンティティ拡散は、自分が誰なのか解らない、何をすれば良いのかが解らない、生きがいが見出せないと言った状態ですが、他にも次のような特徴があります。

・自意識が過剰になる
・何事も葛藤しやすく、選択や決断が出来ない、または回避する
・対人関係での距離が上手く取れず、依存あるいは孤立する
・焦り過ぎる、或いは何事も「一時的なもの」と言った感じで、時間的な見通しが上手く出来ない
・学業や仕事などへの意欲や集中が出来ず、時にはゲーム等1つの事に没頭してそれ以外の事をしようとしなくなる
・社会的な事柄や周囲が望ましいとする立場や事柄に対して嫌悪や軽蔑をし、真逆のものを過大評価する(例えば非行や素行不良など)

少々極端ではありますが、アイデンティティ拡散の典型的な例をご紹介します。
Aさんは大学に入学しましたが、新しい人達の輪の中に上手く入れず孤立している感じがしました。
大学の勉強もつまらなくて、何のために勉強していのるかと思うようになると、やる気が出ず体もだるくなり、次第に大学を休むようになりました。
親の勧めで海外へ短期留学に行く事になりましたが、本人も何かを変えるきっかけになればと留学には意欲的でした。
しかし、留学先で英語が喋れない事で対人関係が煩わしくなり、次第に人を避けるようになったのです。
それと共に勉強する気になれず、留学期間の半日以上は主に部屋でネットゲームをやっていました。
帰国後、どうしても大学に行く気になれず、大学を辞めてしまいました。
手に職があった方が良いと言う周囲の勧めもあり、今度は介護関係の専門学校に入学しましたが、自分に合わない気がして1ヶ月で辞めてしまいました。
どうしても勉強する気になれないので、アルバイトを始めましたが、最初のバイトは先輩が厳しくて3日で、次のバイトは研修で覚える事柄が多過ぎて5日で辞めました。
その後、いくつかバイトをするものの、何処も「自分と合わない」「これは自分の仕事ではない」等と感じて、いずれも長続きせず、そのうちバイトする気力もなくなってしまいました。
正社員になれば「やりがいのある仕事」が出来るのではないかと就職活動を始めましたが、求人広告を見てもどの会社が自分に合っているのか解らず、面接までに至りません。
なかなか仕事がみつからないため、実家で長時間ゲームに没頭する日々を過ごすようになりました。
ゲームに没頭している時以外は、挫折感で自分に自信が持てず気分が沈み、先の希望が見出せず漠然とした不安を抱え、このままではいけないと言う焦りばかりが募ります。
しかし、だからと言ってどうして良いか解らず、塞いだ気持ちを晴らすためにゲームに没頭します。

次回に続きます。
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