相手の話を聞く

先日、ある女性からの依頼案件について事前説明をした時の事です。
お会いした彼女は足を組み、体を斜めにした状態で机に頬杖をつき、歪んだ猫背姿勢から厳しい顔つきでこちらを観察するような上下視線を投げかけていました。
私が話し出すと、視線はあちこちに泳ぎ、貧乏ゆすりと共に回転椅子を左右に揺らして、とにかく落ち着きがありません。
そして相づちが一切ないため、ご理解頂けましたかと訊ねると、その言葉が終わらないうちに斜め下を見ながら小刻みに何度もうなづきました。
最後にご質問はありませんかと訊ねると、頬杖をついたまま椅子をゆらゆらさせ、横を向いて某女優さんの如く「別に」と言われました。
何とか理解して頂こうと丁寧に説明したのですが、話を全く聞いていなかったようで、説明を聞いていれば難なく出来る事が彼女は出来ませんでした。

彼女は横柄で不遜でしたが、それ以上に、まるで「全面的にあなたを受け入れません」と態度で示しているのではないかと言う印象でした。
今回のコラムの反面教師として紹介させて頂きましたが、こんな態度で話を聞かれたら、ほとんどの方が不愉快に思われるのではないでしょうか。

異性の知人が、些細な話でもきちんと聞いていて、後々まで話を覚えててくれた事が解ると、急にその人を意識するようになる、なんて経験をされた方もいらっしゃると思います。
異性に限らず、誰しも自分の話を真剣に聞いてくれる人に対して好感を持つ傾向があります。
何故ならば、話を真剣に聞く事は話を受け入れる、つまり話をしている人自身を受け入れている好意的なサインとなるからです。
逆に、先の彼女のように話を聞かない態度は、話す人を受け入れない敵意的なサインとなるため、話し手は不快になります。

コミュニケーションにとって、「相手の話を聞く」事は話す事以上に大切です。
特に円滑なコミュニケーションを心がけたい時や、自分の事を好意的に思って欲しい相手に対しては「相手の話を真剣に聞く」事がとても重要です。
どんな話も真剣に聞いているよ、と思っていても「その真剣さが相手に伝わっているか」どうかによって、相手が抱く印象は異なります。
もしかすると、自分のちょっとした態度で「損」をしているかも知れません。
そこで、「真剣に聞く」ための、つまり「聞き上手」になるためのちょっとしたコツをご紹介します。

なるべく話し手に体と視線を向けましょう。親しい間柄であれば足を組んでも良いですが、顔や視線は話し手に向けて下さい。
相手が話している最中は、必要以上に体を揺らしたりキョロキョロしたり顔を動かさない事です。
貧乏ゆすりの癖のある人はなるべく我慢するか、相手から見えない場所にしましょう。(貧乏ゆすりの癖がある事をあらかじめ相手に言っておくと良いでしょう。)
話を聞きながら雑誌や携帯やテレビを見るのは基本的にNGです。特に話と関係のない携帯のメールチェックや返信は印象最悪です。緊急ならば相手にその旨を伝え相手の了承の上で操作しましょう。
頬杖やひじを突いて手を組むなど、話し手と自分の間(特に顔)をさえぎるような位置に手を置くのは印象が良くありません。
うなづきや相づちは話し手のテンポに合わせ、「○○でね、」「△△でさぁ、」や語尾が強まった所などに入れると良いでしょう。
相づちは「うん」や「はい」だけでなく、「ホントに?」「へえー」「そうなんだー」「それから?」「それは良いですね」等いろんなパターンを使いましょう。
話の途中で何度もうなづきや「はいはいはい」など相づちをするのは印象が良くありません。特に相手の話をさえぎって自分の意見を述べるのは極力避けましょう。
出来れば、聞き手も相手の話の内容や相手の表情に合わせた表情をすると良いでしょう。

一見大変そうですが、これらは大好きな人の話を聞いている時や、凄く興味のある話を聞いている時など、多くの人が自然ととる態度ではないでしょうか。
相手の話を真剣に聞いていると、今度は相手が自分の話を真剣に聞いてくれるようになってきます。
こうやって「話」を通じて、互いに相手を受け入れてゆき、次第に親密な交流が生まれていくのです。

ちなみに、先の彼女は心を許せる友人知人や家族がひとりもいないそうです。
そして、こんな事を言っていました。
「誰も私の話を聞いてくれないし、誰も私を理解してくれない。」
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