過呼吸

以前、競馬の騎手が新幹線で移動中に突然倒れ、途中の駅で新幹線は緊急停止、そのまま救急車で病院に運ばれた事がありました。
その騎手は翌日に控えたダービーに出走する馬に乗るために京都から東京に向かっていました。
ダービーは競馬の中でも一番華やかで昔から別格扱いの大きなレースです。
果たしてこの騎手は出場できるのか、競馬ファンもヤキモキしていましたが、翌日何事もなかったかのように元気な姿を見せてくれました。
後から解った事ですが、移動中に突然倒れたのは過呼吸の発作だったそうです。

過呼吸は、呼吸が浅く早くなる事で過剰に空気を吸い込み、血液中の二酸化炭素の量が減ります。
減った二酸化炭素を補おうとするため、余計に呼吸を行う事で苦しくなり、呼吸困難や窒息感、胸の痛み、手足や唇のしびれ等を伴い、酷い時には意識がなくなる場合もあります。
程度の差はあるものの、過呼吸は非常に苦しそうですので、事情を知らない周囲の人は慌てて救急車を呼ぶほど驚きます。
しかし、ずっと続くものではなく数分〜長くても1時間程度で主な症状はおさまります。

過呼吸の発作が起きるきっかけ自体は様々です。
マラソン等の運動直後の息切れがきっかけになったり、浅くて早い呼吸を故意に続ける事で発作を誘発する場合もあります。
しかし多くの場合、精神的・肉体的な疲れや強いストレス、過度な緊張や興奮、怒りや恐怖等、心や体に強い力がかかった時に起こります。
このような状況で必ずしも全ての人に過呼吸が起こる訳ではなく、全く起こらない人もいれば、生涯で数回の人もいれば、周期的、或いは頻繁に起こる人もいます。
私自身も過去に2度ほど過呼吸の発作を体験していますが、発作が起きたのは肉親が亡くなったなど相当強いショックを受けた時でした。

先ほどの騎手は「過換気症候群(過呼吸症候群)」と言う持病を持っています。
過換気症候群とは、心因性で過呼吸の発作が起きる心身症の一種で、息切れや速い呼吸で誘発される過呼吸とは一線を画します。
また、いつ過呼吸の発作が来るのか、発作が起きて人に迷惑をかけるのではないかと言った不安を持つ傾向があります。

過呼吸と症状が良く似ているものとして「パニック発作」が挙げられます。
パニック発作も胸の痛みや呼吸困難等があり、過呼吸になる場合もあります。
パニック発作を何度か起こし、それに対する不安が持続していると「パニック障害」の可能性が考えられます。
他にもうつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状のひとつとしてパニック発作が起こる場合もあります。

呼吸困難と言う点から見ると、心筋梗塞、狭心症、気胸、肺塞栓などでも過呼吸と良く似た状態になります。
呼吸が浅く速くなると言う点では、甲状腺疾患(バセドウ病など)も似ているかも知れません。
また、知り合いが突然倒れて過呼吸になった事がありましたが、貧血で倒れた事がきっかけでした。

以上の事から、突然呼吸が乱れて苦しくなった場合、様々な可能性があります。
過呼吸自体は先に述べたように、運動やストレス等ちょっとしたきっかけで誰でもなる可能性がありますし、しばらくすると症状もなくなります。
発作が起きた場合、素人判断をせずになるべく病院で検査をしてもらうと良いでしょう。 ちなみに、過呼吸の発作が起きている時に病院で血液検査をすれば即時に解りますし、発作がおきていない時ならば補助的な診断用のテストもあります。
まずは内科などで診てもらい、体調面に異常がなかったのに時々過呼吸になる人は、心療内科や神経科・精神科で診察を受ける事をお勧めします。
特に発作がまた起きるのではないかと不安を感じている人は、不安がもっと大きくなる前に思い切って診察を受けてみて下さいね。
[1]週刊ココロコラム
[2]TOPに戻る